本研究では、分子性ナノ磁石の性質と光学活性を組み合わせた複合物性を示す磁性クラスター化合物を新規に合成することを目指し、(1)強磁性的相互作用を発現させる、(2)強い相互作用を発現させる、(3)光学活性である、という3つの特徴をもつ新規多核化配位子を精密設計し、これを合成すること、および合成した配位子を用いて多核金属錯体を構築することを目的とした。 ジシアンジアミドと光学活性な含硫アミノ酸であるD-ペニシラミンをニッケル(II)イオン存在下で反応させると、シッフ塩基とチオラト基、カルボキシル基を配位サイトとするキラルな新規配位子が生成し、硫黄架橋ニッケル(II)二核錯体の合成に成功した。また、反応溶媒を変えることにより、硫黄架橋ニッケル(II)三核環状錯体の合成にも成功した。これらの同定はX線構造解析、各種スペクトル測定により行った。しかしながら、これらの錯体ではニッケル(II)イオンは反磁性であったため、現在、他の常磁性金属イオンとの錯形成について検討中である。次に、サリチルアルデヒド、D-ペニシラミン、銅(II)イオンをメタノール中で反応させたところ、同様にシッフ塩基の生成が確認され、シッフ塩基、チオラト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を配位サイトとする新規配位子が形成され、混合原子価銅四核錯体が得られた。銅四核錯体の磁化率を測定したところ、銅(II)イオン間に強磁性的相互作用が発現しており、スピン多重度S=3/2が基底状態であることがわかった。この強磁性的相互作用の発現は軌道直交性によるものであると考えられる。今後、不斉磁気二色性効果等の研究を行う予定である。
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