研究概要 |
光と電波の中間領域の電磁波であるテラヘルツ(THz)領域の分光情報には分子の内部回転や大振幅振動運動、あるいは分子錯体やクラスターの分子間振動運動に起因する多様な吸収が観測される.しかしながら,アミノ酸やタンパク質などの生体関連巨大分子の分光では,水和に伴う速い緩和や,構造揺らぎに伴う不均一幅のために線幅がブロードとなり,通常の周波数領域の一次元分光では得られる情報に限りがある.本研究では通常の吸収分光で得られない分子間振動の詳細な情報を得ることを目的としてTHz二次元相関分光法の開発を試みた. 本年度は昨年開発したTHzパルス列発生装置による二次元相関分光を試みた.対象となるサンプルとしてこれまでTHz周波数帯で測定され,スペクトルに吸収構造が現れるとわかっている糖などの分子性結晶を測定した.しかしこれらの分子の二次元相関スペクトルには吸収構造の相関を示すピークが観測されなかった.その原因として,現状で得られるテラヘルツパルス光は3次の非線形過程である赤外二次元分光を達成するためには十分な強度が無いことが考えられる.また,糖などのスペクトルはその吸収構造の同定が難しく,ピーク同士の相関が実際に得られるのかを推測することが難しいという現状がある. そこで本年度後半は,よりスペクトルに明快な構造が現れ,吸収の帰属が容易であると思われる物質の探索を試みた.その結果,生分解性ポリマーであるpoly-hydroxybutylateがTHz領域に鋭いピークを持ち,また,各ピークがポリマー内の高次構造に起因する振動構造であることを明らかにした.この結果によってTHz二次元分光によって高分子の高次構造に関する情報が得られることが期待される.
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