ベンゼン環上に様々な置換基を有する芳香族化合物、即ち置換芳香族化合物は、先端材料物質や工業薬品、医薬品等における重要物質として幅広く用いられており、これらの真に有用な合成法の開発が強く望まれている。本研究計画は、非環状化合物を環化・芳香族化させることで、位置異性体の全く混在しない強力な置換芳香族化合物合成法を開発することを目的としている。 当該年度は、これまでに開発したベンゼン、およびフェノール誘導体の合成法に改良を施すことで、合成可能な芳香族化合物の適用範囲を大幅に拡大することに成功した。新たな非環状基質の合成には、非常に一般性のある鈴木-宮浦カップリング、アリル化反応を利用した。これによりメタセシスによる閉環のステップを含めて、合成ルート全体を通して官能基選択性に優れた芳香族化合物合成手法の開発を行うことができた。当該年度は、さらに非環状基質の内部二重結合のシス選択的構築を回避できる閉環オレフィンメタセシス/異性化反応によるフェノール誘導体の合成にも成功し、また、閉環反応をエンインメタセシスに拡張することによって、新たにスチレン誘導体を合成することにも成功した。これらの方法論の最大の利点、特徴は、原料基質の置換基の位置を完全にコントロールした上で、最終的に環構築、芳香族化を行っていることから、分離困難、あるいは分離不可能な位置異性体の副生を完全に抑制することができる点にある。
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