多様な構造をもつ標的化合物に対し、統一的かつ短行程で合成を達成することは、最新の精密有機合成化学的手法をもってしても困難である。そこで我々は、酸素官能基を含む化合物群の合成戦略を一新できうる反応として、C-H結合の直接ヒドロキシル化反応に着目し研究を進めている。本手法は、煩雑な手順を踏むことなく、比較的合成容易な炭素骨格を構築した上で、分子内に存在する最少の官能基を足がかりとし、合成の後半に酸素官能基の組み込みを可能とする点が大きな特徴である。本研究では、複数の酸素官能基を持つ化合物や複雑な構造を持つ化合物群に対し、C-H結合の直接酸化反応を基軸とした新たな合成戦略の提供を目的としている。 平成20年度の研究計画に基づき、C-H結合の直接酸化反応を検討したところ、酸化を受けにくいピリジン環を主成分とする配位子とマンガンからなる錯体が、選択的にエーテルのC-H結合酸化活性能を示すことを見出した。マンガン錯体は、触媒量(0.1mol%)まで低減可能であり、量論量のmCPBAを酸化剤として作用させることで、エーテルを効率的にケトンへ酸化することができた。 さらに本研究過程において、mCPBAとトリクロロアセトニトリルの組み合わせが、エーテルのC-H結合を選択的に酸化しケトンを与えることを新たに見出した。これは有機化合物由来の試薬のみがC-H結合酸化活性能を有することを示す結果であり、先に述べた金属触媒を利用した酸化反応とは一線を画す興味深い結果である。 また、ジオキシラン発生源として働くトリフルオロケトン部位を導入した置換基を設計し、分子内C-H結合酸化反応を試みたところ、エーテルだけでなく、活性化を受けていないC-H結合の酸化にも成功した。
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