最新の精密有機合成化学的手法を駆使したとしても、多様な官能基を含み複雑な炭素骨格を持つ化合物の短工程かつ効率的な合成を実現する一般的な方法論の確立には未だ解決しなくてはならない問題が山積している。我々は、有機分子に普遍的に含まれているC-H結合を変換対象とする新規反応の開発により新合成戦略の創出を目指した。事前に基質を活性化する必要のないC-H結合変換反応は、炭素骨格への直接的な官能基導入を可能とし、合成工程の短縮化と簡略化を同時に実現できる。またC-H結合を変換対象とする本反応は、統一的な合成戦略を維持したまま化合物の誘導体化を可能とし、類縁体の網羅的な合成にも威力を発揮する。 これまでに開発したエーテルのC-H結合酸化能を持つマンガン-ターピリジン触媒が、ベンジル位C-H結合の酸化に有効であることを新たに見出した。さまざまなベンジル化合物を一段階にて芳香族ケトンへ変換することができる。同様の手法によりアルコールの酸化も行えることを明らかにした。さらに酸化剤をmCPBAからKHSO_5へ変更することでカルボン酸合成を可能とし、本触媒系の適用範囲を拡大した。 次に有機化合物由来の試薬である、mCPBA-トリクロロアセトニトリル複合系の持つエーテルのC-H結合酸化能について詳細な検討を行った。反応はラジカル反応にて進行していること、変換対象であるC-H結合の立体・電子的な環境が大きく反応の進行に影響を及ぼすことを明らかにした。 また、光反応を利用した炭素環上のC-H結合の直接的アシル化反応に成功し、炭素骨格の酸素官能基化だけでなく炭素官能基化を実現した。アシル化反応は、酸化度を持つ炭素官能基を導入するのみならず、さらなる炭素骨格の構築の足がかりとなりうる官能基を導入できる点で意義深い。
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