研究概要 |
炭素化合物のC-H結合の活性化と連続する官能基変換反応は、石油資源を有効利用する手段として期待されている。その中でもアルキンの末端水素の切断を経由する不斉アルキニル化反応は、有機合成において有用な光学活性アルキン誘導体を得る簡便な合成法である。これまでアルデヒドの不斉アルキニル化反応についてはCu,Inなどにキラル配位子を組み合わせた触媒系が検討されているが、その研究例は限られている。本研究では新たにビスオキサゾリン配位子を有する光学活性ルテニウム錯体を合成した。このルテニウム錯体はアルキンの末端C-H結合を切断してアセチリド錯体を与えるという性質がある。この知見に基づき、アルデヒドの不斉直接的アルキニル化反応を検討したところ、芳香族ならびに脂肪族アルデヒドへの付加反応が進行して、対応するプロパルギルアルコールを95% eeと高選択的に合成できることを見出した。本反応ではアセテート錯体が活性であり、塩基などの添加物を必要としない原子効率の高い触媒反応である。さらにこのアセテート錯体を触媒反応後に回収できることも見出した。続いてイリジウムアセテート錯体によるアルカンならびにベンゼン類のC-H結合切断反応に関して検討した。イリジウム錯体はオクタンなどの直鎖アルカンのC-H結合を切断し、対応するアルキル錯体を与えることを見出した。本反応ではアルカンの末端位のC-H結合が選択的に切断されるという特徴がある。また、イリジウム錯体はベンゼンとも反応して、フェニル錯体が定量的に得られる。さらに、イリジウム錯体を触媒とするベンゼンの触媒的ボリル化反応を検討したところ、中適度の収率であるが触媒反応が進行し、フェニルボロン酸が得られることを明らかにした。
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