研究概要 |
二重結合の幾何異性や連続する不斉炭素中心の立体化学を高度に制御しながら複数の結合形成を達成するカスケード型反応の開発を目的として、触媒的な水素-ホウ素交換反応を基軸とするカスケード反応系「不飽和炭化水素の遠隔ビスメタル化」の開発に取り組んだ。交付申請書に記載の「研究項目1. 遷移金属触媒による水素-ホウ素交換反応および水素-ケイ素付加反応の検討」において、モデル基質を用いた水素-ホウ素交換反応の反応条件最適化を行った。触媒金属や配位子、反応温度、溶媒等について検討した結果、電子供与性の弱いトリス(p-トリフルオロフェニル)ホスフィンを配位子に有する白金触媒を用い、トルエン中80℃で反応を行うことにより効率よく水素-ホウ素交換反応が進行し、多置換アルケニルホウ素化合物が収率よく生成することを見出した。次にケイ素-水素の分子内付加について検討を行ったところ、トリメチルホスフィンを配位子に有するロジウム触媒存在下テトラヒドロフラン中室温において効率よく反応が進行し、環状シリルエーテルを良好なジアステレオ選択性で与えたのに対し、白金触媒では十分なジアステレオ選択性を得ることができないことが明らかとなった。これらの知見を基に、交付申請書に記載の「研究項目2. 触媒的カスケード遠隔ビスメタル化の開発」においては、白金とロジウムの二種の触媒系を段階的に適用し検討を行った。対称型の1,4-ペンタジエン-3-オール誘導体および1,6-ヘプタジエン-4-オール誘導体を基質に用いて反応を行ったところ、二段階の反応によりそれぞれ1,5-位および1,7-位にボリル基とシリル基が立体選択的に導入された遠隔ビスメタル化生成物を収率よく得ることに成功した。これらの知見は、精密な構造制御と多様な誘導体合成への応用が可能な、鎖状分子骨格の新しい構築法確立に資すると考えられる。
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