研究概要 |
二重結合の幾何異性や連続する不斉炭素中心の立体化学を高度に制御しながら複数の結合形成を達成するカスケード型反応の開発を目的として、触媒的な水素-ホウ素交換反応を基軸とするカスケード反応系「不飽和炭化水素の遠隔ビスメタル化」の開発に取り組んだ。平成21年度は、まず平成20年度に実施した「遷移金属触媒による水素-ホウ素交換反応および水素-ケイ素付加反応の検討」において知見を得た、ロジウム触媒による分子内ヒドロシリル化における配位子効果についてさらに詳細な検討を行った。その結果、リン配位子の電子的要因が反応の効率と立体化学に大きく影響を与えることが明らかとなり、電子供与性の弱いトリフルオロメチルフェニル基を有するリン配位子を用いることで、第3級アリル型アルコール誘導体の分子内ヒドロシリル化が高収率かつ高ジアステレオ選択的に進行することを見出した。次に、交付申請書に記載の「触媒的カスケード遠隔ビスメタル化の有機合成への応用」に取り組んだ。対称な構造を有する1,4-ペンタジエン-3-オール誘導体の遠隔ビスメタル化により立体選択的に調製した化合物に対し、まずボリル基部位におけるハロゲン化アルケニルとの鈴木-宮浦カップリングにより、多置換1,3-ジエンへ誘導する反応条件を明らかとした。さらに、得られた生成物に対し玉尾酸化条件を適用し連続的にシリル部位の水酸基への変換を行うことで、1,3-ジオール構造と1,3-ジエン構造を有する非対称な化合物へ誘導することに成功した。この2段階の変換反応は、いずれも前駆体の立体化学を保持して行うことができたため、単純な対称型構造の出発化合物から遠隔ビスメタル化を経由する非対称型構造の多官能性化合物への効率的かつ立体選択的変換が達成された。本変換反応は、天然物に含まれる鎖状分子骨格の新しい構築法として応用が期待できる。
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