研究概要 |
近年大環状分子を用いる曲面構造を持つパイ共役系ゲスト分子の包接とその機能化を目的とした研究が盛んに行われている。本研究では、歪んだパイ共役系骨格を持つ大環状分子の高効率な合成法の開発とその物性評価および機能化を目標としている。平成20年度の研究において、9,10-ジメトキシ-9,10-ジエチニル-9,10-ジヒドロアントラセンとピリジン環を含む大環状化合物を合成し、これがスズ試薬を用いる還元的芳香環形成反応によって歪みを有するパイ共役系大環状分子へと変換されることを見出している。平成21年度はこの成果をもとに、ベンゼン環とアセチレン部位のみで構成される大環状パラフェニレンエチニレンの合成を検討した。ジヒドロアントラセンを含む前駆体大環状分子をパラジウム、銅触媒によるカップリング反応で構築し、これをスズ試薬を用いる還元的芳香環形成反応条件に付したところ、ゲスト分子としてフラーレンを取り込んだ大環状分子が得られることを見出した。包接されたフラーレンは室温においてもホスト分子である大環状化合物内部に取り込まれており、フラーレンの可溶化、機能化などを可能とした。また置換基を持つフラーレンを用いることでその包接挙動を低温NMRにより明らかとした。これら成果は、本研究課題が掲げる剛直な非平面性パイ共役系大環状分子の高効率合成と機能化の達成を意味し、有機合成化学、構造有機化学などの分野に大きな影響を与えたと考えている。上記成果はすでに多数の学会において発表を行っており、また成果の一部はすでにThe Journal of Organic Chemistry誌に受理されている(平成22年度5月掲載予定)。
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