電子豊富なアルキンと強力アクセプター分子であるテトラシアノエチレン(TCNE)の[2+2]付加環化反応を利用して、ドナーアクセプター型共役高分子のアトムエコノミカル合成手法を開拓する。強力電子ドナー部位として芳香族アミンまたはフェロセンを選択し、薗頭反応による重縮合法を用いてポリアリーレンエチニレン誘導体を高収率で得た。低分子モデル化合物として合成したエチニルフェロセン誘導体とTCNEの反応は室温で定量的に進行した。一方、高分子量体のフェロセン含有ポリアリーレンエチニレンは室温では全く反応しなかった。加熱すると徐々に溶液色が橙色から緑色に変化し、反応の進行を示唆した。高温になるにつれて色変化は迅速となったが、同時に高分子の熱分解も生起した。高分子の熱分解温度以下になるよう反応条件を最適化し(100℃、3時間)、目的とするドナーアクセプター交互型共役高分子を得た。未反応のTCNEは昇華により容易に除去できたため、煩雑な精製操作は必要なかった。反応前後の重量増加から収率を見積もったところ、75%の繰返し単位にTCNEが付加していることが明らかになった。得られたドナーアクセプター型共役高分子の紫外可視吸収スペクトルは、長波長域に分子内電荷移動相互作用に基づく吸収を示し、吸収端は近赤外領域にまで達していた。また、電気化学測定においてもTCNE付加後はアクセプター部位由来の還元波が新たに観測された。すなわち、一段階でドナーアクセプター型共役高分子を合成する本手法は、高分子のバンドギャップを狭める技術としても有用である。
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