有機半導体超薄膜の作製において、1分子レベルで膜厚が精密に制御できれば分子素子の高機能化が実現できるが、非常に高度な製膜技術が必要とされる。本研究ではOH基で表面修飾した基板を機能性π共役平面分子フタロシアニン(Pc)溶液中に浸漬・乾燥の操作を繰り返すのみで、Pcを1分子層ずつ精密に積層できることを明らかにした。 実験は次のように行った。OH基表面を持つ基板は、水晶発振子マイクロバランス(QCM)の金基板表面を6-hydroxy-1-hexane-thiolで被覆して作製した。得られた基板を、配位中心にSiOH基を持つPcのCHCl3溶液(15μM)中に所定時間浸漬した後、CHCl3で洗浄した。基板表面に積層したPcの乾燥重量はQCMの振動数変化より算出した。 H21年度は本知見を元に、n型半導体特性が期待できるテトラキス(ピラジイミダゾ)ポルフィラジン(PyPz1)を設計、合成した。得られたPyPz1はπ-πスタッキングを駆動力として1次元集積化した超分子ワイヤを形成した。 PyPz1は、5段階の反応で合成した。同定はMALDI-TOF-MSおよび元素分析で行った。PyPz1の種々の有機溶媒中におけるUV-visスペクトル測定を行った。その結果、配位性溶媒であるピリジン中では690nm付近に単量体に由来する急峻な吸収を示した。一方、クロロホルム、THF、トルエン中ではQ帯に由来する吸収が約30nmブルーシフトすることが明らかになった。これはPyPz1がπ-πスタッキングによるH会合体を形成した1次元超分子構造を形成したことを示唆している。さらに、会合挙動や光学特性の詳細についても検討を行った。
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