本研究では新奇な分子ネットワーク構造を有する高分子ゲルを作成、物性評価することを目的とし、新たな分子間架橋法の開発と用いるモノマーの物性についての詳細な検討を行った。新たな分子間架橋法として、表面に官能基を持つシリカ粒子を架橋点として利用する方法を開発した。シリカ粒子として、イオン交換およびシランカップリング反応を利用して粒子表面にビニル基を導入したものを用いた。水溶液中でシリカ粒子とビニルモノマーの重合反応を行うことにより、ゲル状物質が生成することを確認した。ビニルモノマーとして用いたNイソプロピルアクリルアミド(NIPA)は水溶液系において特徴的な濃度-温度相図を持ち、広い温度範囲においてNIPAが多く含まれる相(H相)と水の多く含まれる相(S相)の二相に分離する。目的物質合成の最適条件を探索する一環として、示差走査熱量測定(DSC)および核磁気共鳴(NMR)法を用いて各相の組成を求め、相図を決定した。H相の組成はNIPA分子と水分子のモル比がほぼ1:1であり温度にはほとんど依存しないこと、S相では高温ほど水分子の割合が増大する傾向にあることが分かった。また組成を固定し、温度を段階的に変化させてNMR測定を行うことにより分子間相互作用の変化を推定した。そして、NMRスペクトルの変化から、主にNIPA分子のアミド基と水分子が温度変化の影響を受けて、水素結合の状態が変わっていくことを示唆する結果が得られた。
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