研究概要 |
RNAと界面活性剤から形成される複合体の形態制御を目的とし,種々の検討を行った。 昨年度から引き続き,グルタミンを骨格としたカチオン界面活性剤の合成を検討した。本年度は水系でも利用可能なトリアジン型縮合剤を利用する方法を応用することで,目的の界面活性剤の合成が達成できた。しかしながらRNAとの複合体形成への応用までは達成できておらず,今後更に検討していく予定である。 また市販の汎用カチオン界面活性剤として,アミド基を有するアミンオキシド型界面活性剤(LAO)を用いて,tRNAとの複合体形成挙動をpHの観点から系統的に検討した。LAOのpKaは約4.5であり,このpHを境に低pH側ではカチオン界面活性剤が,逆に高pH側では非イオン界面活性剤が優先種となる。まずRNAとの臨界会合体形成濃度(CAC)を検討したところ,pHの増加とともにCACは増加し,pH=6.5以上では複合体形成は認められなかった。このことから界面活性剤とRNAの静電相互作用が複合体形成に必要であることが確認された。しかしながら恒温滴定型熱量計にて,会合定数と会合エンタルピーを測定したところ,会合定数はpH=5.5までは,逆にpHの増加によって増大した。LAOは系内に存在するカチオン型がRNAと相互作用して複合体を形成するものと思われるが,更に界面活性剤濃度を上げていくと,残りの非イオン型LAOも複合体形成に関与してくるものと思われる。また結合エンタルピーは,低いpHでは発熱的であったが,pH=5.5ではその符号が反転し,吸熱へと変化した。結合定数の値と比較すると,pKaを越えた高いpH領域では,非イオン型LAOを含めた多くの界面活性剤が結合する結果,RNAの分子内水素結合の低下をもたらし,その結果RNAの二次構造が大きく乱されていることが考えられる。
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