本研究の全体目標である「非共有結合性の分子間相互作用によって自己組織化させた炭素含有率の高い有機化合物の集合体を、外部刺激によりカーボンナノ構造へと変換し、微細な機能性材料へと応用すること」のうち、本年度は、特にカルボキシル基あるいはカルボキシエステル基を導入したデヒドロアヌレン(DBA)誘導体において、以下の3点について研究を行った。(1)自己組織化をプログラムしたターゲット分子の設計と合成。(2)ターゲット分子の結晶構造解析と超構造の同定。(3)集合体の物理的物性の調査および分子配列と物性の相関の解明。これらより得た研究成果は次の通りである。3つのカルボキシル基で置換したDBAをジメチルスルホキシド(DMSO)と共結晶化することにより、DMSOが超構造を構築すうためののりとして機能し、一次元同軸カラム状の超構造が形成されることを見出した。また光的、電気的特性を調査し、この超構造は、ヘリングボーン構造をもつ親化合物の超構造と比較して、蛍光発光が顕著にレッドシフトすることおよび、分子の積層方向に極めて異方的な電荷輸送能をもつことなどを明らかとした。また、4つのカルボキシメチルエステル基をもつひずみDBAは、エステル基の配座によって分子集合形式が変化し、3つの多形結晶を与えることを見出した。これらの結晶は、同一の分子より構築されているが、その分子配列に依存した臨界反応温度を示すことが明らかになった。以上の結果は、炭素含有率の高いπ共役分子の超分子集合様式を変えることにより、その物理物性を大きく変調させることができることを示している。
|