ミセルからベシクルへの光による相転移を目的とし、アニオン性界面活性剤とマラカイトグリーン誘導体を混合させ、相転移可能な系の構築を目指した。マラカイトグリーン誘導体は光照射によってカチオン性界面活性剤となるため、アニオン性界面活性剤を共存させることによりベシクル形成が可能となる。アニオン性界面活性剤にオクチル硫酸ナトリウム(SOS)を用いたところ、暗時ではミセル形成を示したものの、光照射よってベシクルは形成されなかった。そこで、SOSの代わりにビス(2-エチルヘキシル)コハク酸ナトリウム(AOT)を用いたところ、紫外光照射後にベシクルが形成したことが、透過型電子顕微鏡を用いた観察より明らかとなった。ベシクル二分子膜形成に有利な形状をつくるには、親水基のかさ高いマラカイトグリーン誘導体には、同じく親水基のかさ高いSOSではなく、疎水基のかさ高いAOTが適していたためと考えられる。マラカイトグリーンの光イオン反応は、溶液のpHに影響を受けるため、サンプルの溶液は酢酸緩衝液にてpH4.0とした。この条件下において、マラカイトグリーン誘導体の光イオン化率は5%程度であることが分かった。マラカイトグリーン誘導体とAOTの濃度を合計で5g/Lとしたとき、光によるベシクル形成は、AOTに対しマラカイトグリーン誘導体が10%以上存在する際に可能となった。マラカイトグリーン誘導体濃度が10%以下では、ベシクルを形成するためのカチオン性界面活性剤が足りず、光照射後もミセルのままであった。マラカイトグリーン誘導体濃度が20%以上では、暗時においてAOTが脂溶性分子であるマラカイトグリーンを溶解することが出来なかったため、ミセル-ベシクルの相転移に適したマラカイトグリーン誘導体の濃度は10%-20%であることが明らかとなった。
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