研究概要 |
グリーンケミストリーの観点から、高価で毒性の高い金属錯体触媒を使い捨てせずに回収・再利用しながら実現される精密有機合成法の開発、また大量に消費される有機溶剤の使用量を、大幅に削減する手法の開発が近年強く求められている。本研究では、回収・再利用可能なキラルな固体触媒を自己組織化で合成し、これを無溶媒反応へ利用展開することで、高環境調和型不斉合成システムの開発を目指した。 1,1'-ビ-2-ナフトール(BINOL)を出発原料とし、この3,3'位及び6,6'位にスルホ基を導入した光学純品の新規BINOL誘導体を合成した。これらを二方向伸展性、及び三方向伸展性のキラルスルホン酸配位子とし、種々の希土類イソプロポキシドと溶媒中で混合することで、自己組織化により対応する高分子錯体を合成した。元素分析の結果、スカンジウム錯体で想定するイオン/配位子比で構成されているものが得られ、またこれらは多くの有機溶媒に不溶な高分子錯体であることが示された。本錯体をベンジルアミンによるメソエポキシドの不斉開環反応(不斉非対称化)のルイス酸触媒として用いたところ、エナンチオ選択性には改善の余地があるものの、無溶媒条件において目的の光学活性なアミノアルコールを定量的に与えることがわかった。またBINOLの環状リン酸エステルを、スペーサーを介して6位で連結させた新規キラルリン酸を合成し、これを二方向伸展性配位子として用いた自己組織化型高分子リン酸希土類金属塩を種々合成した。これをジクロロメタン中、ヘテロDiels-Alder反応の不均一不斉触媒として用いたところ、収率、立体選択性とも中程度ながら、反応後に回収した触媒は活性を維持し、3回の再利用が可能であることがわかった。
|