本年度は、まず昨年度までに開発に成功したチミン、及びウラシル塩基を含むヌクレオシドH-ボラノホスホン酸モノエステルの合成法をもとに、シトシン、アデニン、グアニン塩基を含むリボヌクレオシド5'-H-ボラノホスホン酸モノエステル、及び2'-デオキシリボヌクレオシド5'-H-ボラノホスホン酸モノエステルの合成に関する検討を行った。保護基や反応条件に関する詳細な検討の結果、核酸塩基部位アミノ基の保護基としてアシル基を用いることでこれら6種類のH-ボラノボスホン酸モノエステルの合成に成功した。これにより、全ての核酸塩基についてヌクレオシド5'-H-ボラノホスホン酸モノエステルの合成を達成した。更に、これらの加水分解に対する安定性についての知見を初めて得ることができた。次に、5'位を適切に保護したリボヌクレオシド3'-H-ボラノホスホン酸モノエステル、及び2'-デオキシリボヌクレオシド3'-H-ボラノボスホン酸モノエステルについても、類似の反応条件下全て良好な収率で得ることができた。これらはいずれもH-ボラノホスホン酸ジエステルを主骨格として有する新しいDNA、RNA類縁体のモノマーユニットとして用いることができる。本研究では、次にこのテーマについて検討した。即ち、これら3'-H-ボラノホスホン酸モノエステルを、3'位を適切に保護したヌクレオシドと縮合し、得られた生成物をNMRによって解析したところ、反応は極めて効率的に進行し目的とするジヌクレオシドH-ボラノボスホン酸ジエステルが生成していることが分かった。しかしながら、このジエステルはシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製を試みると部分的に分解することが判明したため、精製を行わずに他の有用なDNA、RNA類縁体へと変換することを試みた。昨年度の成果として、H-ボラノボスホン酸ジエステルは塩基と硫黄の存在下、P-H結合がP-S結合へと変換されチオボラノホスフェートジエステルを与えることが分かっている。即ち、H-ボラノボスホン酸ジエステルは塩基と求電子試薬の存在下、P-H結合の変換が可能であることを意味する。そこで、求電子試薬としてCCl_4などの塩素化剤を用いることによりP-H結合をP-Cl結合へと変換し、更にP-OH結合へと加水分解する反応を試みたところ、予想通り目的化合物であるボラノホスフェートジエステルが得られた。この手法は、核酸医薬として有望視されているボラノボスフェートDNA、RNAの新しい合成法となることが期待される。
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