多種多様な機能性non-coding RNAが存在し、それらが仲介するさまざまな遺伝子発現制御機構が明らかになっている。本研究課題では、下記の2点に重点を置き、新規核酸医薬開発を推進した。 I. miRNA機能制御素子の開発 microRNA(miRNA)は、Argonauteタンパク質(AGO)を中核とした複合体(RISC)を形成し、遺伝子発現を制御している。本申請課題では、miRNAと結合した際、その二重鎖構造を変化させる核酸素子を用いて、RISC活性に及ぼす影響を評価した。天然に存在する核酸のピッチ(炭素3原子)より1原子多いブチレンリンカー、あるいは、1原子少ないエチレンリンカーでヌクレオチド間を連結させた核酸素子(TSO)を合成した。TSOのRISC機能抑制能を評価した結果、RISCの切断部位の2塩基分をブチレンリンカーに置き換えたTSOが最もRISC活性を抑制した。この領域は、AGOのPIWIドメインと相互作用する領域であり、RISC活性に必須なGW182タンパク質とAGOとの結合部位でもある。これより、AGOとGW182タンパク質との結合領域の構造を大きく変化させることがRISC活性を抑制する上で重要ではないかと考察された。 II. small 7SKミミック核酸素子の設計と機能評価 7SKは進化的に高度に保存されたnon-coding RNAであり、転写過程の抑制に関わっている。7SKをknock downするとHIVプロモーター特異的な転写活性が促進されることが明らかとなっており、これより、7SKは細胞内に存在する『ウィルス遺伝子発現抑制分子』であると考えられる。本研究では、7SKの転写抑制能を模倣する短鎖の機能性人工核酸(7SK mimic)を開発することを目的とした。前年度の研究成果より、7SKの43-61ntのヘアピン構造部位が転写抑制に重要である結果を得た。この領域のヘアピン構造を骨格とした7SK mimicを合成し、機能評価を行ったところ、HIV-LTRプロモーターからの転写を顕著に抑制した。これより、7SK mimicのHIV複製阻害剤としての有効性が示された。
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