本研究全体における最も大きな研究プロジェクト(目的)は、"「生体内における緻密で巧みな触媒・制御機構」を動的X線結晶構造解析の技法を用いて、電子密度で確認(可視化)すること"である。具体的には、「1)酵素蛋白質結晶中で実際に触媒反応を進行させる、2)その進行過程をX線回折データとして収集する、3)結晶構造解析から得られた活性中心の精密な差フーリエ電子密度図を用いて、基質分子ならびに酵素活性中心に存在するアミノ酸側鎖の反応進行中での動き(働き)を原子レベルで追跡する」ことを計画しており、まず本年度は本研究を遂行させる上で必要となる、「長時間X線を照射することで起こる蛋白質へのダメ-ジ」と「高輝度X線照射による蛋白質内部金属結合部位の還元」について調べるために予備的実験を行った。標的蛋白質結晶としては"銅含有亜硝酸還元酵素"の結晶を用い、それに基質である亜硝酸イオンをソークしたものをX線回折実験に使用した。連続で360度分回折データを収集し、30〜90枚で1データセットして合計28組の時系列データセットとした。各データセット間での差フーリエ電子密度(Fo-Fo)を調べたところ、銅原子結合部位に明確な位置のずれを確認できた。またそれに伴い、基質である亜硝酸イオンの1つの酸素原子にネガティブの電子密度が確認できた。これらは、X線照射によって銅原子のII価からI価への還元反応が起こり、基質である亜硝酸イオンも還元され生成物である-酸化窒素になったことを示唆させる結果である。現在、これら結果を論文にまとめている最中である。
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