研究概要 |
本研究では、スピンクロスオーバー錯体の薄膜を作製し有機薄膜素子に組み込むことで、スピン転移を利用した有機薄膜素子の特性制御を目指している。スピン転移が素子特性の鍵となる要素を劇的に変調するスイッチとなれば、新しいメモリ素子やセンサーとしての利用も期待される。 今年度は、薄膜化可能なSCO錯体の探索をしつつ、すでに薄膜化に成功していた[Fe(dpp)_2](BF_4)_2(dpp=2, 6-di(pyrazol-1-yl)pyridine)錯体に関して、クロロフィルa(Chl a)の混合膜を用いた電界発光素子を作製した。300Kでは3Vの印加電圧でChl aに由来したスペクトルが明確に確認できるが、200Kまで冷やすとChl a由来の発光が消失した。続けて素子を300Kまで昇温すると、再びChl a由来のELスペクトルが観測され、EL発光のON/OFFのスイッチングは温度の上昇・下降に伴い繰り返し再現できる。温度依存性の測定から260K付近でChlaの発光が消失していること、低温で印加電圧を上昇させても発光が観測されないことが分かった。この260Kという温度は、[Fe(dpp)_2](BF_4)_2のスピン温度と一致する。[Fe(dpp)_2](BF_4)_2を含まないChl aだけからなる電界発光素子では200Kでも3VでChl aに由来したELスペクトルを観測できることから、260Kより低温でのEL発光の消失は活性層に取り込んだ[Fe(dpp)_2](BF_4)_2のスピン転移によって引き起こされていることは明らかで、本研究の当初目的である「スピン転移を利用した有機薄膜素子の特性制御」の発現を達成できた。
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