本年度、固体系色素増感太陽電池の高効率化を指向し、まずnarrow-band gap近赤外吸収材料の分子設計・合成に着目した。また、電池素子において光吸収の役割を担う色材分子間およびこれらを含む界面での電子的相互作用の明確化を目指した。本研究で開発中のπ電子骨格から構成されるフタロシアニン類は、計算化学的手法により、まず2分子間での会合形成に基づく特異な電子物性を理解することが極めて重要と考えた。 前年度に続き、分子内におけるπ-結合拡張以外のコンセプトに基づいて、会合体構造を推定しつつ光吸収材料の開発を進めた。合成したフタロシアニン類における系統的構造評価から、酸化チタンへの共吸着剤として使用されるコール酸の存在下ではQ帯の位置する700~750nm付近のさらに長波長側である800~830nm付近に吸収帯を示し、モル吸光係数(ε)が10^5程度と高いことを見出した。この発見に基づき、分子間で誘発される集合構造の発現について、計算化学的手法を導入して解析を試みた。分子軌道計算により判明した特徴の一例として、2分子会合体構造での重なり方、つまりπ-πスタッキングの位置選択的制御が吸収帯長波長シフトの制御に重要であることを付きとめ、近赤外吸収材料の新たな分子設計指針を得ることができた。また、酸化チタン等の界面を形成する部材との電子ポテンシャルについて考慮すると、合成したフタロシアニン類は、高効率固体型色素増感太陽電池の近赤外光吸収材料として有望視される。
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