研究概要 |
活性炭やリチウムイオン電池負極材料などとして注目されている難黒鉛化炭素(ハードカーボン)は、黒鉛層からなる部分と外部からのアクセスが困難な内側の細孔部からなるといわれているが、この内部細孔は既存のガス吸着等温線測定などの測定方法では観測が困難であった。本研究実施者は初年度の研究で、この細孔構造を明らかにするために、サンプルに時間をかけてキセノンを導入し、その吸着されたキセノンを固体核磁気共鳴法で検出することにより、細孔内の環境を調べる方法を考案した。本年度において、いくつかの構造の異なるハードカーボンについて実験を行った結果、ハードカーボン前駆体樹脂をキセノンガス中で焼成することによって、通常の窒素ガス下で作製した標準的なサンプルと表面性が異なる炭素材料ができることが明らかとなった。ハードカーボンにキセノンを吸着させたサンプルについてキセノン核磁気共鳴測定を行うことにより、焼成温度の上昇に伴う内部の細孔構造の変化を明らかにした。本研究により、活性炭の細孔など、今まで外側とつながった「開孔」と呼ばれる部分の細孔の解析のみに用いられてきたキセノンの核磁気共鳴法が、一部の「閉孔」にも適応でき、その細孔の大きさや表面についての情報が得られることを示すことができた。 また、上記の当初目的の研究のほかに、初年度の新規炭素材料の研究段階において、酸化黒鉛を出発物質とするグラフェン薄膜からなる新しい炭素化合物を開発することに成功していた。よって、本年度(第二年度)は、新たに「酸化黒鉛を出発物質とする新たな多孔質グラフェン材料の開発」も研究目的に加え、研究を遂行した。酸化黒鉛と金属錯体を原料として用いることにより、白金,パラジウム,ルテニウムの金属ナノ粒子がグラフェン表面に均一に分散した材料を作製することに成功し、特許出願した。この炭素は燃料電池の酸素還元触媒特性に優れるなどの特徴があることをすでに出版された論文にて報告したが、さらなる触媒特性が見込まれるため、今後もこの材料についての評価,研究の結果が期待される。 以上のように、本研究においては、キセノンを用いた炭素材料の解析や表面の調製という当初の目的を達成しただけでなく、産業利用にも期待される新規炭素材料の開発にも成功するという、顕著な成果を挙げることができた。
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