研究概要 |
本研究では, 結晶性フッ素系共重合体であるpoly[tetrafluoroethylene-co-(perfluoroethylvinylether)](以下PFA)を繊維化し, 倍率5倍における280℃での高温延伸を施すことで, 結晶性でありながら透明なプラスチック光ファイバー(POF)候補物の形成に成功した. PFAの中でもperfluoroethylvinyletherの含コモノマー成分が7wt%の共重合比のフッ素樹脂を用いることで, 1kmあたりの赤外光(850nm)の伝送損失値が500dbを記録した. これは既製品で最も汎用性の高いポリメチルメタクリレート(PMMA)の可視光伝送損失値の約5倍の値であり, 200mまでの適用距離ならばPMMA製POFと同等の光伝送能を持つことを示している. 更に本材料は初めての結晶性POFであるが故に, 従来の非晶性製品の3倍近い耐熱温度と優寸法安定性を示し, 全フッ素化樹脂であることから赤外光を吸収するC-H結合が存在せず, 赤外領域にまで渡る広い伝送波長域を誇る. 更に本研究では,この結晶性POFのサブ・ナノ構造解析を行うことにより, 透明性発現の起源を解明し, 更に光伝送距離の伸展を目指した. 各延伸倍率の結晶性フッ素系POFに対し, 小角X線散乱(SAXS), 広角X線回折(WAXD), そして示差走査熱量測定(DSC)を複合的に適用することにより, 対象材料が透明性発現する折には, 高分子鎖が折り畳まれた構造単位であるラメラが, 左右傾きを持った積層配列を形成する"ヘリング・ボーン(ニシンの骨状)"構造をとり, かつ斜方晶系の結晶構造形成していることが分かった. 前者の事実は, 対象化合物においては初めての発見であり, 後者は1954年にNature誌上でC. W. Brunが報告した研究内容を修正するものであった. そして更に, 透明性向上の起源は試料中の結晶領域と非晶領域の電子密度差の低下に直接的に影響を受けていることが解明され, 非晶領域の密度向上がPOFの適用伝送距離の更なる伸展の鍵であることが見出された.
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