動的超音波散乱法(DSS)という超音波を線源とした新しい非接触ダイナミクス解析法の開発を行った。この手法の魅力は、粒径解析や分子ダイナミクス評価法としてなじみ深いレーザー動的光散乱(DLS)に類似した手法でありながら、(1)光が透過しないミクロン懸濁粒子に対する非接触ダイナミクス計測が行え、学術的には(2)散乱場の"直接"解析が行えるという際立った長所を有している点である。本研究では特に、10-20MHzの高い周波数でミクロな構造体を対象としたDSS解析と検証を行った。研究成果の一例として、直径3-32μmのポリスチレン微粒子を界面活性剤を用いて純水に分散させ、懸濁溶液中の沈降速度とその揺らぎを定量化した。沈降と同方向にセンサーを配置して取得した沈降速度の平均値から微粒子の大きさが得られることはこれまでの研究で確認済みであるが、平均成分が観測されない沈降に垂直な方向からの測定から速度の不均一性を単独で記録し、粒子径との対応関係を明らかとした。さらに散乱音場が実測できる長所に着目して散乱音場から位相を抽出し、運動速度の大きさのみならず、方向情報を得ることもできた。これは従来のパルスドップラー法とは異なり、(クロス相関や平均操作なしに)運動速度が分子運動のタイムスケールで高速に評価できると共に、位相による粒子の存在位置に関する情報も得られる技術である。その応用例として、水中で浮上/沈降する2種類の微粒子を同時に計測して、流体中のそれぞれの運動速度が定量化できることを示した。
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