直鎖状ポリオレフィン類では流動場結晶化においてシシ構造が生成することはよく知られている。しかし、一方でトポロジーの異なる環状高分子についての流動場結晶化に関する研究は全くなく、直鎖状高分子と同様なシシ構造が形成するのかは非常に興味深い。環状高分子は末端が存在しないため、直鎖状と環状で同じ長さの高分子鎖であっても、その形成する絡み合い量や絡み合い状態には非常に大きな違いがあり、絡み合いが重要な役割を担っているシシ構造形成挙動も大きく異なると予想される。本研究では、Grubbs触媒による開環メタセシス重合を経由して合成された環状ポリエチレン(C-PE)の流動場結晶化挙動を、直鎖状ポリエチレン(L-PE)のそれと比較することにより、シシ構造形成における絡み合いの果たす役割を明らかにすることを目的とした。 既報に従い、環状高分子合成触媒である修飾型Grubbs触媒の合成を経て、前駆体環状ポリオクテナマーを調製し、それを水素化することによってC-PEを得た。L-PEは第二世代Grubbs触媒を用いて同様の方法で調製した。C-PEとL-PEの重量平均分子量Mwは固有粘度測定から、それぞれ115000および65600と求められた。流動場結晶化観察装置として、Linkam社製のCSS-450を使用した。サンプルを平衡融点以上のTmax(=150℃)まで加熱し、Iminアニールした後、結晶化温度Tcまで冷却して等温結晶化を行い、その様子を偏光顕微鏡で観察した。なお、Tcに到達する6秒前に、パルスずり流動(ずり速度50s-1、印加時間1s)を加えた。 生成したシシの融点とシシ生成速度の測定は、偏光顕微鏡下で直接観察することによって行った。その結果、C-PEでも繊維状結晶の生成を確認できた。また、この繊維状結晶の融点を測定したところ、通常静置下で観察される球晶の融点より高い値を示したため、シシ構造であると判断した。末端が存在しないため、絡み合い量が少なく、かつ、絡み合いの種類が制限されるC-PEにおいても、高分子量体であれば、結晶化や流動の条件次第でシシ構造を形成することが分かった。' 単位体積当たりのシシの個数Nの結晶化時間tに対するプロットのグラフの傾きからシシ生成速度Iを見積もった。この方法で求めたIをC-PE、L-PEについてそれぞれの過冷却度ΔT(=Tm0-Tc)に対して整理した。logI vs. 1/ΔT2のグラフは、C-PE、L-PEともに直線となり、シシ生成が核生成律速過程であることがわかった。また、直線の傾きCはほぼ等しいことがわかった。 切片10について比較すると、C-PEの10に比べてL-PEの10は1桁程度大きく、C-PEはL-PEに比べてシシ形成が困難であることがわかった。融液中で絡み合った高分子鎖に流動を印加すると、絡み合い点を起点として高分子鎖が伸長された配向融液が生じる。この配向融液から、分子鎖が束状になったbundle核を生成し、伸びきり鎖結晶シシへと成長していくと考えられるが、絡み合いの量が少なく、かつ解けやすい絡み合い(非knot型)が主たる絡み合いであるC-PEは、L-PEに比べ、上述の伸長鎖からなる配向融液の形成が困難であると考えられる。このことがC-PEの10がL-PEの10に比べて小さいことの理由であると考えられる。
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