近年、ダイヤモンド中の単一の常磁性発光中心である単-NV中心が量子通信・計算素子の観点から注目されている。単一常磁性発光中心の単一電子スピンとそれと相互作用する単一核スピンが量子ビットとして利用され、更にそこからの単一光子発生が通信・計算において重要な役割をする。本研究では、固体では最多数の量子ビットをもつ単一常磁性発光中心の探索、及び探索した系における量子情報処理操作の実証を目指している。 集積化が期待される固体素子での量子もつれ状態の生成は容易ではなく、これまで2量子ビットでの量子もつれ状態の生成が極低温で超伝導体素子を用いた研究で報告されているだけであった。今回、電子スピンが2つの^<13>C核スピンと相互作用した3量子ビット系において、2つの核スピンの2量子ビット間、及び電子スピンと2つの核スピンから成る3量子ビット間に量子もつれ状態を室温で生成することに成功した。3量子ビット間での量子もつれ生成は固体では初めてで、また、それらが室温で行われた点は特筆すべき点である。 また、量子通信・計算素子の観点からは電子スピンのコヒーレンスを保持できる時間(スピン緩和時間)が長いことが必要である。そこで今回、核スピンをもつ^<13>Cを天然存在比(1.1%)より少なくしたダイヤモンド中の単-NV中心のスピン緩和時間を調べた。エコー法による横緩和時間T_2を測定し、室温で1.8ミリ秒と非常に長いことを示した。これは我々の知る限り固体中における電子スピンの室温におけるT_2としては最長時間である。
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