本研究は、シリコンをベースとした二次元電子系や量子ドットを基礎とする半導体低次元系と強磁性電極の接合構造を用いて、スピン注入、スピン伝導、スピン検出等の基礎技術を構築することを目的としている。これを実現するためには、(1)シリコン系材料を利用した量子ドット作製技術の構築、(2)量子ドット/強磁性体微小トンネル接合におけるスピン依存伝導の観測、の2点が重要な鍵となる。そこで平成20年度は、技術開発面の研究として、Si/SiGe二次元電子系を量子ドット化するための基礎となるショットキートップゲート構造作製技術の確立、物性発現実証研究として、InAs量子ドット系と強磁性電極の微小接合構造を利用したスピン伝導の観測を行った。 Si/SiGe二次元電子系に対して、微細加工によりAu/Ti系トップゲート構造を作製し、量子ホール系におけるエッジチャネルやバルク状態の伝導現象を調べた。スピン状態の影響によるトンネル伝導確率差を反映した、明瞭なスピン依存伝導現象等を検出することに成功した。これは、作製したショットキー型トップゲート構造(Au/Ti)によって、Si/SiGe二次元電子系を局所的に空乏化することに成功したことを示しており、量子ドット作製に向けた基礎技術が確立されたことを指している。次に、電子数を精密制御したInAs量子ドット系と強磁性電極との間のスピン伝導を調べた結果、量子ドット内の軌道状態を反映した負のトンネル磁気抵抗効果を観測した。これは、半導体低次元系と強磁性電極の接合において、明瞭なスピン依存伝導現象が発現することを示唆している。
|