相変化光記録は、記録材料の結晶-アモルファス相変化に伴う光学特性の差異を利用した記録方式であるが、相変化記録材料が示す高速結晶化のメカニズムは未だ不明な点が多い。この点を明らかにするためには記録材料の構造情報が不可欠であるが、実際の相変化記録媒体における記録材料の詳細な構造解析例は少なく、特に記録マーク部の構造解析はほとんど行われていない。これは、相変化記録媒体において記録層は20nm以下の薄膜であり、また、記録媒体が記録層のほか保護層や反射層などからなる多層膜を形成しているため、X線回折法などの従来の構造解析手法では、記録層単独の構造情報の取得が困難であることによる。このような試料の場合、高い空間分解能を有する透過電子顕微鏡法(TEM)を用いた断面観察が有効であるが、複雑な多層構造を有する記録媒体のTEM試料作製は容易ではない。そこで、本年度はGe_2Sb_2Te_5を記録層とする相変化光ディスクの断面TEM試料作製技術およびナノビーム電子回折法などを用いた解析手法の確立を目指した。その結果、化学研磨、機械研磨、イオン研磨などのTEM試料作製技術を併用し、それぞれの手法における最適条件を見出すことで良質なTEM試料を作製することができた。得られた試料を用いて高分解能電子顕微鏡観察およびナノビーム電子回折実験を行ったところ、記録後の試料においてアモルファス領域の形成が確認された。このようなアモルファス領域は記録マーク部に対応すると考えられ、記録媒体内における記録領域のアモルファス化が確認された。電子線動径分布解析の結果、記録マーク部では成膜時のGe_2Sb_2Te_5アモルファス薄膜におけるアモルファス構造がほぼ再現されていることが明らかとなった。
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