結晶-アモルファス相変化に伴う物性変化を利用した相変化記録では、記録材料として結晶化速度が大きくアモルファス相の安定性が高いGeTe-Sb_2Te_3擬二元系などが用いられている。これらの記録材料が示す高速結晶化のメカニズムを明らかにするため、昨年度に引き続き、透過電子顕微鏡法を用いて光ディスク内部におけるGe_2Sb_sTe_5アモルファス薄膜および記録マーク部の局所構造解析を行った。 Ge_2Sb_2Te_5アモルファス薄膜および記録マーク部から得られた電子回折図形の精密強度解析を行うことにより得られた干渉関数において、両者はピーク位置、ピーク強度ともほぼ等しいが、記録マーク部より得られた干渉関数では散乱ベクトルQ=65nm^<-1>付近に特有のピークが観察された。このピークは、膜厚が数ミクロン程度のGe_2Sb_2Te_5膜から得られた干渉関数においても観察される。溶融急冷により形成された記録マーク部や厚膜試料では、薄膜に比べ形成時の冷却速度が遅いと考えられるため、ピークの出現はアモルファス相中での構造緩和に起因することが予想される。実際、Ge_2Sb_2Te_5アモルファス薄膜を結晶化温度以下で熱処理することにより、構造緩和を進行させた試料から得られた干渉関数にも同様のピークが観察された。また、電子線動径分布解析の結果、記録マーク部より得られた2体分布関数には、原子間距離r=0.32nm付近に特有のショルダーが観察された。この値は、Ge_2Sb_2Te_5準安定相におけるGe(Sb)-Teの原子間距離とほぼ等しいことから、記録マーク部において結晶相の構造を反映した原子配列が存在し、このような化学的短範囲規則性の発達が結晶化速度に影響を及ぼすと考えられる。
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