本年度では、密度汎関数理論に基づいた第一原理電子状態計算により、昨年度に引き続き、Ge/Si界面近傍に生じた刃状転位の転位芯の構造特性と電子状態に関する研究を行った。ここでは、特にSi基板上のGe層数の変化に着目し、転位芯の幾何学的構造と電子状態との関連について調べた。すでに、Ge/Si界面近傍に存在する転位芯の原子構造として5-7員環からなる構造を提案している。この転位芯は、その上にGe層が積まれても壊れることなく安定に存在し、そのボンド長やボンド角はほとんど大きく変化しないことが分かった。また、転位芯よりも上に積まれたGe膜は、Geのレイヤー数の増加とともに、Ge膜中のボンド角の歪みが緩和されるが、Ge膜中で広範囲に広がっていることが分かった。電子構造に関しては、転位芯に関連する電子状態がバンドギャップ中に見られる。それらの状態は価電子帯トップで転位芯を避けるように電子密度分布が広がり、伝導帯ボトムでは転位芯上に電子密度が存在していることが分かった。このため、走査型トンネル顕微鏡の価電子帯での像では、転位芯に沿って暗い線として、伝導帯の像では明るい線として現れることが分かった。また、Geレイヤー数の増加とともに走査型トンネル顕微鏡像における転位線幅が広がることが分かった。これらの結果は、走査型トンネル顕微鏡を用いることで、転位芯の原子構造を観察できる可能性を示唆しているものと期待される。
|