本研究は、Si(110)表面に実現する広大な一次元的表面構造(16x2再構成構造の単一ドメイン)の応用を目指すものである。Si(110)は16x2構造という長周期の表面再構成が存在するが、その構造を制御することで、有用な一次元構造(単一ドメイン)が得られることがわかった。この表面構造は、特に、原子や分子の低次元ナノ構造作製のテンプレートとして有用であると考えられる。本研究では、Si(110)-16x2単一ドメイン表面上へ種々の分子や原子を吸着させ、それらの自己組織化を利用した有用な一次元ナノ構造創製の指針を提案するものである。 H20年度では、研究の第一段階として、本表面構造の高品質化、及び安定化を目的とし、STMを用いたSi(110)-16x2単一ドメイン表面構造の基礎的計測を行った。表面エレクトロマイグレーション方向をよく制御することにより、一μmを超える範囲で、広大な一次元表面構造を再現性よく準備することが可能となった。回析法による計測では、単一ドメインの領域はmmレベルに達していることがわかった。このとき、表面構造の次元性の低下に起因して、表面カイラリティが現れてくることがわかった。このことは、本表面が不斉分子の不斉合成の場として応用できる可能性を示唆する。 さらに、作製された表面構造を水素で終端処理することで、十分に構造が安定化することがわかった。水素終端処理の結果、16x2再構成構造単一ドメイン構造は、大気中でも少なくとも10分程度は安定であることが確認された。このことにより本表面構造を大気中または溶液中で利用できる可能性が示された。
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