冷却原子の打ち上げ実験を試みたが、原子冷却部の真空チャンバーの機械精度の問題が発覚したため、この部分を作製しなおした。また、2台のマイクロ波共振器を真空チャンバー内に導入した。光学系に関しては、まず、レーザーパワーの不足を解消するため、半導体レーザーのインジェクションロックとテーパーアンプによる光増幅システムを構築した。これにより、1本あたり約15mWのパワーをもつ6本の冷却用レーザーを得た。加えて、単一モード光ファイバーを用いて冷却用レーザーのビームプロファイルを改善した。鉛直方向の冷却用レーザーを用いない、いわゆる(011)系での原子の打ち上げは思ったよりも難しいが、そのためのノウハウを蓄積することができたため、今後の実験の進展に期待できるだろう。 また、パルスビーム原子泉におけるマイクロ波との相互作用領域での原子密度および検出原子数を計算し、衝突シフトと周波数安定度の量子限界を理論的に見積もった。そして、打ち上げ速度を時間とともに徐々にスイープさせることにより、衝突シフトを増大させてしまう相互作用領域での原子の密度を抑制しつつ、信号対雑音比に関わる観測領域での原子の密度を高くできることを見出した。この手法により、衝突シフトを2×10^<-16>程度に抑制しながら、周波数安定度の量子限界を6.4×10^<-14>τ^<-1/2>(τ:測定時間(s))にできると見積もった。この結果は、同じ周波数安定度をもつ従来方法の原子泉よりも衝突シフトを1桁小さくできることを示している。これは世界中の時間標準の研究者にとって重要な成果だと考えられる。
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