本研究"神経細胞チップのX線マイクロビーム照射実験による神経伝達機構の解明"では、半導体、細胞工学の技術を用いて神経回路が人工的に設計された神経細胞チップを開発する。さらに、神経伝達回路を構成する特定の細胞部分にX線マイクロビームを照射し、その影響による神経回路の情報伝達特性の変化(損傷、修復など)について調べることを目的としている。 開発したX線マイクロビーム照射装置は、光学顕微鏡システムにマイクロフォーカスX線管を取り付け、細胞観察と同時にX線照射が可能である。X線管から発生したX線を孔径25μm、厚さ2mmのタングステンコリメータを用いてX線ビームを生成した。ターゲット細胞に対する吸収線量とビームプロファイルはガラス線量計の蛍光観察法を用いて測定し、直径25μmのX線ビームスポットにおいて最大100mGy/sであった。 培養細胞が人工配列された神経細胞チップはフォトリソグラフィ等の微細加工技術と細胞工学を利用して製作された。ガラス基板上に神経培養細胞PC12が50μm間隔で格子状に配置され、細胞間は神経突起で接続されている。また、神経細胞チップ上の細胞について、微小電極プローブとCa^<2+>濃度観察を用いて細胞間の信号伝達を確認した。 次に、X線ビームを用いて神経細胞チップ上の単一細胞に2Gyまで照射し、パッチクランプ法を用いて、細胞膜の抵抗および静電容量成分を調べた。細胞膜抵抗は照射後24時間で3桁程度小さくなり、静電容量も1桁小さい値となった。今後は、Ca^<2+>濃度蛍光観察などと組み合わせた実験結果を収得し、考察を行う予定である。
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