本研究"神経細胞チップのX線マイクロビーム照射実験による神経伝達機構の解明"では、半導体、細胞工学の技術を用いて神経回路が人工的に設計された神経細胞チップを開発する。さらに、神経伝達回路を構成する特定の細胞部分にX線マイクロビームを照射し、その影響による神経回路の情報伝達特性の変化(損傷、修復など)について調べることを目的としている。 開発したX線マイクロビーム照射装置は、組み込みタイプの光学顕微鏡システムにマイクロフォーカスX線管を取り付け、細胞観察と同時にX線ビーム照射が可能である。平成22年度では、X線マイクロビーム照射装置に、パッチクランプシステムを取り付けて、細胞膜の電気的特性について調べた。パッチクランプ法は、細胞膜に電解溶液が満たされたガラスキャピラリー(パッチ電極)を接触させ、生体膜の電圧、電流を測定するシステムである。本研究では、X線照射下においてパッチ電極の性能が低下しないように、ガラスキャピラリーの形状、電極配置等に工夫が施されている。 単一のHeLa細胞にX線ビームを吸収線量率0.3Gy/sで2Gyまで照射し、細胞膜の電流変化を調べた。X線照射後、細胞膜に流れる電流は徐々に変化、24時間後で3桁程度増加した。また、印可電圧のステップ応答から算出される細胞膜の静電容量も減少した。従って、放射線照射によって、抵抗器、コデンサー、電圧電源で組み合わされる細胞膜の等価回路モデルにおいて、抵抗器、コンデンサーともに減少していることがわかった。 平成23年度は、X線照射中の細胞膜の電気的特性について詳細に調べる予定である。
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