単一のイオンが半導体に入射した時に発生するシングルイベント過渡電流(SETC)と、イオン入射位置の関係をマッピングする手法であるIPEM型TIBICの測定系構築を進めた。昨年度は、Am-241から放出されるα粒子が発光体に誘起する光を位置検出器を用いて検出することができなかった。本年度は、位置検出器の代わりに高感度冷却CCDカメラを利用して、α粒子1個が発光体に誘起する光を検出することに成功した。当該計測システムをAVFサイクロトロンのビームラインに組み込み、150MeVのArイオン1個が発光体に誘起する光を観測することにも成功した。発光の検出と同時に、Arイオン1個が半導体に誘起するイオン誘起電荷の計測にも成功した。発光検出の位置分解能が数十μmであるものの、IPEM型TIBICを実現する目途を立てることができた。一方、従来型TIBICを用いた実験では、2種類の電界効果トランジスタ(MOSFET及びMESFET)に対して高エネルギー重イオンを照射した時に、ドレイン、ソース、ゲート電極に誘起されるSETCの計測を行った。各電極にイオンが入射した時に、異なるSETCが検出された。特にMOSFETのドレイン電極やMESFETのゲート電極にイオンが入射した時、イオンの入射エネルギーから算出した電荷量よりも大きな電荷量がドレイン電極から収集されることが分かった。MOSFETの場合、ソース(n^+)-エピタキシャル層(p)-ドレイン(n^+)から成る寄生バイポーラトランジスタによる電流増幅効果に起因し、MESFETの場合、寄生バイポーラトランジスタによる電流増幅効果と半絶縁性基板の電荷蓄積効果に起因することが分かった。以上のように従来型TIBICを用いて、μmオーダーの大きさを持つ電界効果トランジスタのSETCマッピングを取得することで、SETCの位置依存性を明らかにすることができた。
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