研究概要 |
前年度の成果を踏まえ,スーパーコンピュータを用いた超並列計算を行い,大規模経済データの実証分析を進めた.1.日本企業約100万社を対象にした,企業をノード,取引関係を有向リンクとして,各企業がどの企業と取引しているかに関する大規模な有向ネットワークを分析した.三ノードの部分グラフ上での位置関係(構造同値)から,各ノードは30種類のroleに分類できる.リンクをランダムにつなぎ替えた場合と比較して,各企業がどのroleに位置しやすいかを測った.これを用いて,事業内容や企業の大きさなどによる単純な分類とは異なる,実際の取引形態のパターンに基づいた新しい企業の分類を提案した.2.連の検定(ノンパラメトリック検定)を用いて外国為替市場の高頻度ティックデータを1日毎に分析した.いろいろな時間スケールで,価格が上がるか下がるかの二値時系列を作成し,変動方向(符号)の続きやすさを調べた.2007年の上海ショックとパリバ・ショック,2008年のベア・スターンズ危機とリーマン・ショックの例を通して,数十ティック間隔の変動方向の続きやすさが,ボラティリティ(変動幅)とは異なる側面から市場特性を捉えていることがわかった.3.過去24年間の首都圏の物件を対象にした,大規模なマンションの売買データ(約72万件)を年別に分析した.住宅価格の分布はベキ分布,住宅面積の分布は指数分布に従い,住宅価格の対数値と住宅面積には線形の関係があることがわかった.この線形関係を用いて,住宅価格から住宅面積の寄与分を差し引いた規格化した住宅価格の分布を調べた.この分布は,住宅バブルの時期を除けば対数正規分布に従うが,住宅バブルの時期は右に歪んだ非対称な分布になることがわかった.
|