研究概要 |
超並列計算を用いて,企業間ネットワーク,外国為替市場,住宅価格の大規模な経済データを臨界ゆらぎの視点から実証分析した.数理科学と経済学の両面から考察し,以下の新しい科学的知見を得た.1.日本企業約100万社について,企業をノード,取引関係を有向リンクとして,各企業がどの企業と取引しているかに関する大規模な有向ネットワークを分析した.ネットワークの核の部分である強連結成分を抽出し,その企業の重要性とリンク先の企業の重要性を加味して企業の重要度(PageRank)を計算した結果,成長率の高い企業ほど,単位リンク数あたりのPageRankが大きいことがわかった.2.高頻度ティックデータを用いて,外国為替市場における価格変動の非定常性を分析した.価格が上がれば+,下がれば-として価格変動を二値化し,同じ符号が何回続くか(同符号継続回数)の分布を1日毎に算出した.カイ二乗検定を用いて,異なる日の二つの分布が同一とみなせるかを調べた結果,非定常性が認められ,平均して三日経つと分布は同一とみなせなくなることがわかった.非定常になる間隔を分析した結果,この間隔はポアソン過程で近似できることがわかった,ニュースやイベントなどの外乱が,非定常性の要因になっていると考えられる.3.首都圏のマンションの売買データ(約72万件)を年別に分析した.首都圏では可住地が限られているため,全物件の専有面積の総和は一定になっていると考えられる.この条件の下で総面積を各物件に割り振る際,多様な需要に応えるために面積の割り振りが最もバラエティに富むものになっている(エントロピー最大化原理)という仮説を立て,専有面積が指数分布する要因を説明した.また,面積との相関を取り除いた価格(面積調整した価格)の分布が,対数正規分布からどの程度乖離しているかに注目し,バブル検出の方法を考案した.
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