研究概要 |
波の多重散乱現象に基づく繰り返し解法(IPNM)が数学的には古典的反復法の一つであるJacobi法と類似する.古典的反復法としてはGauss-Seidel法,ω-Jacobi法,SOR法およびSSOR法が知られている.さらに,08年から09年にかけてSonneveldらはIDR定理に基づいた古典的反復法に対する改良反復法を提案した.代表者はこれらの反復法を取り入れた新規のIPNMを提案し,性能を評価した.ただし,SORおよびSSOR法については最適な緩和係数の算定が非実用的であるため性能評価より除外した.経験的な算定式の提案が課題である. 性能評価の結果,IDR定理に基づいた反復法を取り入れたIPNMは古典的反復法を取り入れたIPNMに比べ収束性に優れているが正味の計算時間は長くなる.また,Gauss-Seidel型のIPNMはJacobi型にくらべ収束性に優れていることが分かった.代表者は各種IPNMの算法および多重散乱現象の時間的推移を詳細に検討し,上記の結果を解説した.IDR定理に基づいた反復法を取り入れたIPNMの計算時間の短縮が課題である. 大規模な連立1次方程式の反復求解については07年に提案されたIDR(s)法の改良が盛んに行なわれている.その中から代表者はvan Gijzenらが提案したMR-IDR(s)法が10万元を超える複素完全密行列に対する性能評価において従来のIDR(s)法よりも高い収束性を示すことを見出した.以上のほかに従来のIPNMに対する簡単な並列処理法を提案し,多重散乱の影響が弱い領域ではPE数以上の台数効果を得ることを確認した.ただし,評価事例が少ないため来年度以降も継続して取り組む.
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