研究概要 |
波の多重散乱現象に基づく繰り返し解法(IPNM)について昨年度に代表者が提案した9種の新型算法の正味の計算時間を削減させる手法を提案した.具体的には算法中に現れる連立1次方程式の反復求解において効率のよい初期値および収束条件を示した.この結果,古典的反復法に基づいたIPNMではrelaxed Jacobi型が,IDR定理に基づくIPNMではIDR-based Gauss-Seidel型が,それぞれ通常計算に対して計算精度およびメモリ量に影響することなく5倍以上の高速化を達成させた.また,高速化の倍率は物体数および物体間距離の増加にしたがって増加することを示した.これにより,提案から30年以上を過ぎたIPNMは代表者の研究成果により境界要素解析における高速解法として日の目を見るようになり,今後電磁界のみならず同解析を用いた様々な科学技術分野への利用が期待される. 昨年度の研究において,SOR法およびSSOR法については古典的およびIDRベースのいずれの反復法においても最適な緩和係数の算定が非実用的であることが問題であった.これに対して代表者は古典的SOR法において最適な緩和係数を動的に決定する方法を見出し,さらに数式を変形することで新規の反復法「逐次的最小残差(SMR)法」を提案した.この成果はSOR法の提案以降半世紀以上も手がつけられなかった問題の解消につながることが期待される.このため,当初の研究実施計画を急遽変更し,科学技術の様々な分野の実数行列問題を集めたデータベースに登録されたすべての問題に対して数値実験を行った.その結果,SMR法は従来の古典的反復法では解けない多くの問題に対して一定の精度の解を得ることに成功した.このSMR法の導出までのプロセスは新規の反復法およびIPNMの開発に活かすことが可能であり,本研究課題の更なる発展が期待される.
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