研究概要 |
「転位の離散的特性を考慮した非局所結晶塑性理論の構築とマルチスケール解析による検証」という課題に関して今年度の研究成果は以下のようにまとめられる. まず,昨年度に構築を行った離散転位動力学解析のための均質化理論の妥当性を確かめるために,界面転位を有する層状組織の解析を行った.この層状モデルは200ミクロンのマトリックス材と200~20ミクロンの強化材によって作られており,マトリックス材と強化材のヤング率比には1~10倍の場合をそれぞれ想定した.結果として,離散転位動力学解析の結果は,50ナノメートルより小さい転位芯近傍において,解析解と非常に良い一致を示すことがわかった.このことは,構築した理論を用いた解析によって,強化材と転位の間の相互作用力が正しく評価されていることを示しており,理論および開発したプログラムの妥当性を示す結果である.また,50ナノメートル以上離れた領域においては,対数的に大きく異なる値を示すことがわかった。この結果は,解析解が無限体中に界面にひとつだけ転位があるモデルであるのに対して,解析モデルが層状モデルであることに起因しており,層状組織内の転位の作る応力場の評価をするためには,単純な解析解では不十分であり,本理論に基づく解析手法が有用であることを示している. つづいて,非局所結晶塑性を考慮した有限要素解析のための陰的解析手法を開発した.このため,後退オイラー法とニュートン・ラプソン法に基づいて有限要素方程式を導いた.また,幾何学的に必要な転位の自由エネルギーとして,転位の自己エネルギーを考える場合の組込み方法についても検討した.結晶粒モデルの解析によって,解析手法の妥当性は示され,さらには,これまでに開発されていた準陰解法による解析結果との比較によって,開発した陰解法は,10~40倍の増分安定性を有しており,2~5倍の計算効率を有していることがわかった.
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