研究概要 |
CFRPの長所は比強度・比剛性が優れていることであるが,それのみならず,他の材料と比べて極めて低い熱膨張率を有することも,大きな特徴の一つである.従って,CFRP積層板は激しい温度変化を受ける人工衛星のアンテナリフレクタや望遠鏡の主鏡への適用が検討されている.これらの精密構造物は高精度の寸法が要求される.例えばアンテナやセンサーでは,鏡面に対して波長の数分の十(回折限界)から20分の1(散乱損失)の面精度が要求されるといわれている.遠赤外線の波長は0.4μm〜数百μmであるので,0.1〜10μmRMSの面精度が必要となる.望遠鏡の主鏡ではそれと同程度あるいはそれ以上の面精度が保持されなければならない.そのため,様々な環境においてミクロンオーダーで寸法保持を保障する設計を検討することは工学的に重要である.しかしながらCFRPは母材が高分子で構成されており,環境変化により10μmレベルの想定外の変形を引き起こすことが報告されており,精密構造部材への適用は想定されていない.21年度ではこの変形の最も大きな要因が吸湿変形であることが明らかとなった.CFRP積層板を高温多湿環境に曝し,変形量と時間の関係を定量的に調査し,吸湿膨張係数,水分の拡散係数を異方性を考慮して非常に正確に定量化することができた.したがって,CFRPの水分吸着に対する対処,ある条件で放置した場合の吸水変形などが把握できた.そして,その他の定量化すべき要素の実験には取りかかっている.概ね当初の計画通り研究が遂行されていると言える.
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