軟質金属として銅(Cu)を選択し、その金属を非晶質炭素膜中に分散した、金属を含む非晶質炭素膜(Cu-DLC)膜の微細構造及び摩擦摩耗特性に関して検討した。 薄膜材料はアセチレンガス量、及びスパッタ電力に着目して作製した。作製した薄膜は5nm〜10nm程度の銅の粒が非晶質炭素膜中に一様に分散している構造であり、スパッタ電力の増加と共に粒径が増大することを明らかにした。 摩擦試験では、主に(1)前駆体ガス量の最適化及び(2)スパッタ電力の最適化を行った。スパッタ電力及びアセチレンガス量を変化させ、種々の膜を作製し摩擦試験を行った結果、電力が60Wでアセチレン量が0.7sccmの時、往復動摩擦試験で最低摩擦0.15を得ることに成功した。また、比較の為、タングステン(W)を含むDLC膜についても同様の検討を行ったが、タングステンの場合は最低摩擦係数が02程度かつ不安定な摩擦となることが分かった。 本年度得られた知見の意義と重要性は以下の通りである。低摩擦が得られた試験片に対して、低摩擦を得た場合は元素分析を実施したところ、ボール表面には必ずと言って良い程、銅を主成分とする移着膜が形成されていた。また、タングステンを含む膜に関しても同様であった。このことから、本研究の様な、炭素-金属から成るコンポジット膜では、金属を主成分とする移着膜を意図的に形成させることが低摩擦発現に必要不可欠であると考えられる。このことは、近年盛んに行われている金属を含む非晶質炭素膜の摩擦摩耗に関する研究において、低摩擦には金属から成る移着膜の形成が必要であることを世界で初めて示したという意味で学術的な意義は大きい。また、本知見は低摩擦となる薄膜設計において、金属を主成分とする意着膜を形成させる為には最適な膜組織が必要であることを示した意味で非常に重要であり、金属種によって摩擦係数が支配される可能性を初めて示した。
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