研究概要 |
地球環境負荷低減への対策として,潤滑油の低リン化・低硫黄化が求められている.しかし,リン(P)・硫黄(S)成分は摩擦面に潤滑被膜(トライボフィルム)を形成して摩擦摩耗の低減に重要な役割を果たしており,潤滑油の他にP・S成分を供給するプロセスを構築して摩擦摩耗の制御に最適なトライボフィルムを形成しなければならない.本研究はP及びSせを鋼表面への物理化学修飾する手段としてイオン注入法に着目し,P及びSイオン注入層により低摩擦・高耐摩耗性を実現する最適なトライボフィルムの形成を目標とする. 平成20年度では,ビームライン型イオン注入装置を用いて鋼基盤へのPイオン注入を実施して注入するイオンの量及び注入イオン分布の深さが異なる数種のイオン注入層を形成し,各種条件下によるイオン注入層の特性を明らかにした.また,イオン注入がトライボロジー特性に及ぼす影響に関する参考データとして,3次元形状の対象物に注入可能であり汎用性の高いプラズマイオン注入法(PBII)により窒素(N)イオン注入を実施してトライボロジー特性を得た.Pイオン注入鋼のXPS深さ方向分析により,注入するイオンの加速エネルギーの増大に伴いPイオンが注入される深さが増大し最大で深さ50mm程度までイオン注入されることから,最適なイオン注入条件の選定が可能になった.また,PBIIにより窒素注入された鋼のトライボロジー特性の調査により,潤滑下では窒素注入層が潤滑油粘性の耐荷重性能により窒素注入層が保護され,さらにトライボフィルムの形成を促進させることにより摩擦摩耗低減に寄与することが明らかになった.
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