研究概要 |
本研究では,鋼表面に形成されたリン(P)及び硫黄(S)イオン注入層により潤滑下のしゅう動面に形成するトライボフイルム(潤滑被膜)の高機能化・高強度化を目指し,最適化されたトライボフィルムにより摩擦低減・耐摩耗性の向上を最終目標とする.平成20年度は,Pイオン注入層の形成とその摩擦特性の調査により注入層の有無による摩擦挙動の差異を見出した.平成21年度では,Sイオン注入層の開発とそのトライボロジー特性の調査にも着手し,PおよびSの各種イオン注入層による自己潤滑性とイオン注入層によるトライボフィルムの高機能化を目標とした. ビームライン型イオン注入装置により鋼基板への各種イオンを注入し,作製された各種イオン注入層に対して元素濃度の深さ方向分析および偏光膜厚解析を実施した結果,イオンドーズ量の増大に伴いイオンの侵入深さは増大することを明らかにした.また,各種イオン注入層のトライボロジー特性の調査では,イオンの種類およびイオンドーズ量により摩擦摩耗特性に差異が生じることが示された.Pイオンドーズ量の増大に伴い,低速度領域において摩擦を低減し,さらに相手摩擦材の摩耗量も低下した.これは,Pイオン注入層の自己犠牲的に摩耗を防止する一方で,摩擦によりPイオン注入層からリン系トライボフィルムが形成したことが一因として考えられる.Sイオン注入により摩擦摩耗の低減に寄与する結果も得られたため,摩擦摩耗の制御に最適なイオンを選択し,イオン注入層を形成することにより自己潤滑性を付与することが出来ることが明らかになった.
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