研究概要 |
本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けて,分析的に膜機能変化を調べることが特色となっている.この目的のために,本年度は,細胞膜を構成部分に分けた分子モデルを構築し,その分子モデルを用いてせん断力の作用していない状態(平衡状態)における細胞膜系の物性値の独自のデータベースを作成することを計画した.具体的にはOPOPC単一脂質膜,DPPC単一脂質膜,そして混合脂質膜,という異なる構成成分によって表現された細胞膜分子モデルの開発に取り組み,それらの分子モデルの構築に成功した.この分子モデルを用いた計算結果から,脂質分子一個あたりの膜面積,脂質分子のオーダーパラメータ,構成成分の密度分布などの細胞膜に関する物性値のデータベースの作成することができた.これらの分子モデルやデータベースは,次年度の研究計画である,せん断力を細胞膜の分子シミュレーションに適応させるためのコード開発の土台となるものである.混合脂質膜の分子モデルの開発に成功したことで,これまで単一脂質膜分子モデルのみを扱っていた当該分野の他の細胞膜の解析よりも,より現実の細胞膜に近い状況を扱うことが可能になり,2008年度の日本流体力学会でその研究成果の一部を発表した。また,本年度開発した平衡状態における細胞膜の分子モデルをいち早く非平衡な状況に応用した研究を行い,その成果を医学系,理論系の研究者と共著で,2009年度のJournal of Biomechanical Science and Engineeringに発表した.
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