研究概要 |
本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けた分子モデルを構築し,その膜の分子モデルに対して様々な状況でのせん断力を働かせるコードを開発することが特色となっている.この目的のために,本年度は,昨年度開発した細胞膜を構成部分に分けた分子モデルに対してせん断力に伴う膜面積変化を与えるコードを開発した.具体的には,POPC単一脂質膜,DPPC単一脂質膜によって表現された最も単純な細胞膜分子モデルに対して従来の方法でせん断力を与え,これにより膜面積が増加する可能性を見出し,その知見を基に,細胞膜分子モデルの膜面積変化を与えるコードを新たに開発した.この研究によりせん断に伴う膜面積変化に対する膜の応答を調べ,膜面積の増加に伴い膜の構造の一部に水分子が流れ込み,膜を貫く穴構造ができることが確認された.またシミュレーションを実行するための計算パラメータの最適化に成功した,この予備的な研究は,次年度の研究計画である,せん断力を様々な細胞膜分子モデルに対して適応するシミュレーションの土台となるものである.細胞膜の分子モデルの開発に関して,昨年度より得られてきた成果を2009年度の日本計算工学会に発表した.また,せん断力に伴う膜面積の増加による膜構造の変化に関しては,その初期段階での結果を,2009年度のThird Switzerland-Japan Workshop on Biomechanicsにて発表した.
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