超臨界圧流体は、環境への負荷が少なく、化学的に安定・安全であり、低コストである。現在、固有な特徴を活かした工業分野への応用が、急速に進んでいる。有用物質の抽出において、不燃性で溶解力の大きい超臨界圧二酸化炭素を抽出溶媒とすることは、環境にやさしく、グリーンサスティナブルケミストリーの視点から注目を集めている。さらに、原子力の分野では、将来の核融合炉において超臨界圧水を冷却剤として用いることで、現在の核分裂炉と同等の発電効率が取得可能なため、有力な設計概念の一つとなっている。 基礎学術分野においては、実験や理論から、擬臨界点付近の伝熱劣化や乱流熱伝達現象の把握が進んでいる。しかしながら、正確な計測が困難な物理量に関しては、未だ経験則の域を脱していない。また、支配方程式にモデル化を施した数値計算(RANS)での研究も行われている。この計算手法は、汎用性が高いため産業界で広く使用されているが、経験式を含み精度の信頼性に欠けるのが実情である。他方、本研究でのモデルを用いない直接数値シミュレーション(DNS)は、高精度な結果を取得可能であり基礎学術分野で広く使われている。 本研究では、物性値コードをRANSおよびDNSに組み込むことにより、変物性を考慮した単相流の数値シミュレーションに成功した。超臨界圧二酸化炭素を対象にRANSを実施し、擬臨界点を越す温度領域まで解析した。これにより、本研究の最終目的である汎用性のある超臨界圧流体計算コードの確立を達成した。 さらには、臨界点近傍の物性変化に対応可能な超臨界圧水のDNSコードを世界で初めて整備した。超臨界圧流体の乱流熱伝達現象のメカニズム解明は、工業分野から基礎学術分野にわたって大きな貢献が可能である。本研究では、当該DNSコードを用いて超臨界圧水を対象とした大規模な数値計算を実施する予定であり、さらに画期的な成果となりうる。
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