パルスレーザー堆積法(PLD法)を用いて、自然超格子構造を有する希土類ガーネット型フェライトR_3Fe_5O_<12>および二次元三角格子フェライトRFe_2O_4の単結晶薄膜を作製し、その物性評価を行った。R_3Fe_5O_<12>薄膜においては、基板との格子不整合に由来するエピタキシャル歪みを導入して薄膜の格子を面内に圧縮し、結晶構造の中心対称性を破ることによって、自発分極を発現させることに成功した。また、Fe^<3+>イオンの一部をTi^<4+>イオンで置換することによって、光誘起磁性が発現することを見出した。分光測定により、この光磁性は、Ti^<4+>イオンと、電荷補償効果によって生成するFe^<2+>の間の光誘起電子移動によって引起こされることを見出した。また、二次元三角格子フェライトTmFeCuO_4薄膜のエピタキシャル成長に初めて成功した。薄膜の結晶構造および組成は、基板温度や成膜後の熱処理条件に大きく依存し、特に1000℃以上のアニーリングで、構成元素のFeの蒸発が著しく組成ずれが顕著になることが分かった。また、PLD法により、スピン電荷競合系InFe_2O_4薄膜のエピタキシャル成長にも成功した。この薄膜は、還元雰囲気中で基板温度を600℃以上まで上げた場合に結晶性が良くなるが、製膜中のInの再蒸発が著しいため、In-rich組成のターゲットを用いることにより化学量論組成のInFe_2O_4薄膜を得た。透過型電子顕微鏡観察を行い、InO層とFeO層が交互に積層した自然超格子構造が形成されていることを初めて確認した。また磁気測定では、二次元三角格子面内のスピン相互作用に由来する大きな面内磁気異方性が観測された。X線回折では観測できないナノサイズのFe_3O_4相の寄与により、室温以上でも強磁性的挙動が見られるが、このような不純物相は磁気異方性を持たないため、面直/面内方向の磁化を測定することにより、試料中の不純物相の有無を判別できることが分かった。その結果、磁性不純物フリーのInFe_2O_4薄膜の成長には、ターゲットのIn/Fe原子数比を0.8以上にする必要があることを見出した。
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