有機半導体薄膜は軽量・大面積化が容易・低コストなどの多くの利点を持ち、発光素子や薄膜トランジスタなどのデバイスに応用され、ますますの発展が期待されている。しかし、結晶成長技術をはじめ微細加工技術などの、デバイス実現に至る各種要素技術は無機半導体と比べ未熟であるといえる。本研究の目的は、無機半導体で培われた結晶成長技術を有機薄膜材料に応用し、フラーレンC60を用いた新規デバイスの創出を行うことである。C60分子内の炭素間の結合は共有性の強い結合であり安定性は極めて高い。このため、C60の結晶成長において、無機材料と同様に扱えるといえる。そこで、結晶成長法として分子線エピタキシー法を用い、基板結晶としてGaAsを使用し、C60結晶とGaAs基板のエピタキシャル関係を明らかにした。本年はBe-GaAs結晶中にC60分子を添加し、その結晶学的特性と電気的特性について精力的に研究活動を行った。結晶学的特性として、低温MEE法にてC60分子をδドープした試料を透過電子顕微鏡にて観察し、C60分子が添加されたGaAs結晶には結晶欠陥が一切存在しないことがわかった。これは無機半導体中に様々なクラスターを無転位で添加できることを示しており、非常に興味深いと言える。P型C60 delta-doped GaAsのElectrochemical CV測定を行ったところ、C60ドーピング層周囲にキャリア濃度のdipが現れ、その後にキャリア濃度のスパイクが確認できた。これは、Si-doped GaAs薄膜中のC60添加によるトラップセンターの挙動と同一であり、C60添加によるトラップセンターはホールに対しても有効であることがわかった。電子に対するトラップセンターとの違いは、トラップセンターからキャリアが放出される電界強度であり、アクセプタ型トラップであることがわかった。
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