近年、次世代デバイス用の材料として半導体と磁性体の両方の特性を併せ持つ希薄磁性半導体が注目されている。しかしながら室温で強磁性を示し、実用化に耐えうる希薄磁性半導体は見つかっていない。そこで本研究では、あたらしい希薄磁性半導体の探索として、第一原理による理論計算により室温で強磁性を示すと予測されているV添加ZnSeの作製と評価を行った。原料にジメチル亜鉛(DMZn)、ジメチルセレン(DMSe)、トリエトキシバナジルを用いて常圧MOVPE法によるV添加ZnSe膜の作製を行った。DMZnとDMSeの供給量比を適切に設定することで、V添加ZnSeはGaAs基板上にエピタキシャル成長することが分かった。V添加ZnSeが室温で強磁性を示す条件として、ZnSe結晶中のVはZnサイトに置換されていることが要求される。そこで、光吸収、光電流、ホール効果測定によりZnSe結晶中のVの状態を調べた結果、VはZnSe結晶中のZnサイトに置換されていることがわかった。さらに室温でSQUIDによる磁気特性を調べた結果、無添加ZnSeでは反磁性を示したが、V添加ZnSeでは強磁性的な振る舞いを示すことが明らかになった。 一方、既存の希薄磁性半導体CdMnTeを用いたデバイス開発に関する研究では、母材となるCdTe結晶の結晶性改善を目的とした。基板に用いたGaAsはCdTeとの格子定数の差が14%以上あるためエピタキシャル成長は困難であるが、あらかじめGaAs基板表面をトリエチルアンチモンで処理することにより、CdTeとGaAsの格子定数の差による影響は緩和し、CdTeの結晶性が改善されることを明らかにした。
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